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名古屋の韓国食材店
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こんにちは、食材キュレーターの篠原 碧です。
あなたは今、猛烈にお腹が空いていますか?
それとも、「いつもの食卓」に少しだけ飽きてしまっていますか?
もしそうなら、この記事はあなたのためのものです。
名古屋駅、新幹線を降りてきらびやかな高層ビルが並ぶ桜通口へ向かうのは、観光客のすること。
食を愛する私たちが目指すのは、反対側。混沌と湯気が入り混じる「太閤通口(駅西)」です。
一歩足を踏み入れれば、そこは異界。
鼻腔をくすぐる焦がしごま油の香り。熟成した唐辛子のスパイシーな刺激。
ここは古くからコリアン・ルーツを持つ人々が生活を営んできた、名古屋の「リトル・コリア」。
私は料理研究家として、生徒さんからよくこう相談されます。
「先生、家でチゲを作っても、なんだか『浅い』んです。お店のようなコクが出ません」
はっきり言いましょう。
それは、あなたの腕が悪いのではありません。
「食材の解像度」が足りないだけです。
スーパーできれいにパック詰めされ、発酵を止められた「死んだキムチ」と、専門店で呼吸を続けている「生きているキムチ」。
ただ「赤い粉」として売られている唐辛子と、料理に合わせて挽き方を変えられた「魔法の粉」。
今日は、私が名古屋で必ず立ち寄る「プロ御用達の韓国食材店」を案内しながら、あなたの食卓を劇的に変える“本物の選び方”を、科学のメスを入れて解剖します。
読み終わる頃には、あなたの口の中はすでに、旨味の洪水で溢れているはずです。

名古屋の食通や有名飲食店の店主たちが、早朝から足繁く通う場所。それが中村区の駅西エリアです。
ここは、東京の新大久保のような「観光地化されたコリアンタウン」とは、決定的に趣が異なります。
流行のチーズハットグを片手に歩く場所? いいえ、違います。
ここは「生活のための市場」なのです。
路地裏の小さなお店に入ると、そこには必ず、店を守るオモニ(お母さん)たちの姿があります。
彼女たちが売っているのは、単なる食材ではありません。
これらは、工場のライン生産では決して再現できない「時間という調味料」が含まれています。
私たちがここで買うのは、食材と共に、その背景にある膨大な手間暇。
プロの料理人たちは、この「時間」を買うために、わざわざここまで足を運ぶのです。

名古屋で韓国食材を語る上で、ここを避けて通ることは許されません。
創業1948年、駅西に本店を構える「株式会社ナリタ」です。
なぜ、これほどまでにプロの信頼が厚いのか?
単に「歴史があるから」ではありません。そこには、明確な「味の科学」が存在するからです。

スーパーで売られている安価なキムチの裏面表示を見たことがありますか?
「増粘多糖類」「酸味料」…そう、あれは発酵させているのではなく、調味液で「キムチ風の味」をつけた浅漬けであることが多いのです。
一方、ナリタのキムチは「自然発酵」です。
篠原の成分分析ノート:
野菜の糖分を餌に乳酸菌が増殖し、旨味アミノ酸が生成されます。
時間が経つにつれ乳酸が増え、pHが低下(酸味が出る)。
この酸味は、お酢のツンとする酸味(酢酸)とは違い、まろやかで旨味を含んだ乳酸の酸味です。
ナリタのキムチは、保存料で菌を殺していません。つまり、購入した後も冷蔵庫の中で呼吸し、成長し続けているのです。
「昨日より今日、今日より明日」。味が刻々と変化するグラデーションを楽しめるのが、本物の証拠。
古くなって酸っぱくなったキムチを豚キムチやチゲにした時、あの爆発的な旨味が生まれるのは、この乳酸発酵のおかげなのです。

「唐辛子なんて、どれも同じでしょう?」
もしそう思っているなら、あなたは人生の半分を損しています。
ナリタの棚に並ぶ唐辛子の種類の多さに驚いてください。
実は、唐辛子は「粒度(メッシュ)」によって、役割が全く異なるのです。
| 種類 | 粒度 | 科学的特性と用途 |
|---|---|---|
| 粗挽き(キムチ用) | 大きい | 辛味成分(カプサイシン)の細胞壁が壊れきっていないため、溶出が遅いのが特徴。噛んだ瞬間に香りが弾け、後からじんわりとした温かさと甘みを感じさせます。キムチの色付けや和え物には、絶対にこれです。 |
| 細挽き(調味用) | 微粉末 | 小麦粉のような微粉末。表面積が大きいため、瞬時に強い辛味と鮮やかな赤色を放出します。チゲのスープやトッポギのタレに溶け込ませるならこちら。 |
「辛いのが苦手だから」と量を減らすのは間違いです。
「粗挽き」を使って、辛さを抑えつつ香りだけを足す。
この使い分けができるようになった瞬間、あなたの韓国料理は「お母さんの味」から「プロの味」へと進化します。
店内の冷蔵ケースには、スーパーでは絶対にお目にかかれないチャンジャ(タラの内臓)やケジャン(ワタリガニのキムチ)が鎮座しています。
特に注目すべきは、これらを漬け込む「ヤンニョム(合わせ調味料)」の設計です。
唐辛子、ニンニク、生姜、果物、そして魚介エキス。
これらが複雑に絡み合い、単一の「塩味」や「辛味」ではない、五味(甘・酸・鹹・苦・旨)をすべて刺激する味の設計図が描かれています。

初めて専門店に行くと、その熱気に圧倒されて何を買えばいいか分からなくなるかもしれません。
大丈夫です。篠原流の「まずこれを買えば間違いない」という、勝利の方程式を伝授します。
ごま油は、韓国料理の血液です。
選ぶべきは、「低温圧搾」に近い製法で絞られたもの。
高温で無理やり絞った油は焦げ臭さが出ますが、良質なごま油は、封を開けた瞬間に「炒った胡麻そのもの」の甘く濃厚な香りが漂います。
ナリタの純正ごま油は、その香りの立ち方が別格。一度これを知ると、もう戻れません。
「豚キムチを作っても、何かが足りない…」
その正体は、動物性タンパク質の発酵した旨味、つまりイノシン酸やグルタミン酸です。
ピンク色に輝く小エビの塩辛(セウジョ)を、ほんの小さじ一杯入れてみてください。
塩の代わりにこれを使うだけで、料理に「海のような奥行き」が生まれます。
選ぶ際は、エビの形が崩れておらず、液汁が澄んでいるものが新鮮な証です。
ナリタ本店以外にも、名古屋には個性が光る素晴らしい韓国食材店が点在しています。私の取材ノートから、特におすすめの2軒をシェアします。
ナリタ大須店をはじめ、最新の韓国コスメやインスタ映えスイーツと共に食材を買いたいなら大須です。
若い活気に溢れており、初心者でも入りやすい明るい雰囲気が魅力。
キムチだけでなく、すぐに食べられるホットスナックも豊富なので、食べ歩きついでに「本場の味」を持ち帰ることができます。
中心部から少し離れた天白区・植田エリアにあるのが「ソウルマーケット」。
ここは、いわば「近所の韓国コンビニ」のような温かさがあります。
日常使いできる調味料や、手作りの惣菜が人気。
「今日は何がおいしい?」「この野菜はどうやって食べるの?」と店主と言葉を交わしながら買い物をする。
そんな、ネット通販では絶対に味わえない「体温のある買い物」がここにあります。

専門店で素晴らしい食材を手に入れたら、難しい煮込み料理をする必要はありません。
素材のポテンシャルをダイレクトに感じる「コッチョリ(即席白菜和え)」を作りましょう。
これが、一番贅沢な食べ方です。
これらをボウルで手早く和えるだけ。発酵を待たず、サラダ感覚で食べます。
粗挽き唐辛子の「辛くないのに赤い」香ばしさと、アミの塩辛の深い旨味。
一口食べた瞬間、白菜の甘みが口の中で爆発します。
「私が今まで食べていたものは何だったの?」
そう思わせる自信が、私にはあります。
読者の皆様からよくいただく質問をまとめました。
A. はい、大歓迎されます!プロの料理人も多いですが、一般の家庭料理用のお客さんも多数来店しています。分からないことは店員さんに聞くと、美味しい食べ方を親切に教えてくれますよ。
A. ナリタ本店には店舗前に数台分の駐車スペースがありますが、人気店のため混み合うことも多いです。駅西エリアは一方通行も多いので、近くのコインパーキングを利用するのが安心です。
A. もちろんです!韓国海苔、濃厚なゆず茶、さっぱりとした冷麺、そして絶品のごま油など、辛くない食材も宝の山のように揃っています。
「一口の向こうに、生産者の時間がある。」
私が大切にしているこの言葉を、名古屋の韓国食材店は体現してくれています。
スーパーで「モノ」として食材を買うのではなく、専門店で「人の手」を感じて食材を買う。
その行為そのものが、料理を美味しくする最初の、そして最大の工程なのかもしれません。
今度の休日は、ぜひ名古屋駅の西側へ、あるいは街角の専門店へ足を運んでみてください。
そこには、あなたの料理の腕を一段階引き上げてくれる、魔法のような出会いが待っています。
さあ、美味しい冒険に出かけましょう。
この記事は、食材食品ライター篠原 碧が独自の取材と科学的知見に基づいて執筆しました。記事内の情報は執筆時点のものであり、最新の営業状況は各店舗の公式サイトをご確認ください。
篠原 碧(しのはら・あおい)
1986年、新潟県佐渡市生まれ。父は鮮魚仲卸、母は給食の栄養士。市場の喧騒と台所の湯気に育てられ、素材を見る眼と味を言葉にする耳を鍛えてきました。
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