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じゃがいも
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京都市の実家は、創業100年続く乾物屋でした。
冬の足音が聞こえる頃、台所には土がついたままのじゃがいもが木箱に並びます。母はそれをたわしで丁寧に洗い、皮ごと甘辛く煮付けてくれました。湯気とともに立ち上る土の香りと醤油の匂い。それは私にとって、一番安心できる「家の匂い」でした。

大人になり、管理栄養士として1万人以上の方の食事を見てきましたが、ふと気づくことがあります。
「もしかして皆さん、じゃがいもの一番良いところを、捨ててしまっていませんか?」
「炭水化物だから太る」と敬遠したり、芽も皮も一緒くたに厚く剥いてしまったり。
それは、あまりにももったいないことなのです。
じゃがいもは、食べ方一つで体を守る「薬(サプリ)」にもなれば、残念ながら毒にもなり得る、二つの顔を持つ野菜です。そして最新の栄養学は、「冷やす」「合わせる」というひと手間で、じゃがいもが最強のダイエット食に変わることを証明しています。
今日お伝えするのは、私の信条である「一口ごとの効能」を大切にした、損をしないじゃがいもの食べ方。
読み終える頃には、きっと野菜室のじゃがいもが、愛おしい「食べる美容液」に見えてくるはずです。


ピーラーでシュルシュルと皮を剥くその手つき、少し待ってください。
あなたは今、野菜室にある「最も安価で優秀なエイジングケア美容液」を捨てようとしています。
じゃがいもの皮や、そのすぐ下の部分には、私たちが想像する以上の栄養が凝縮されています。これを捨てて白い部分だけを食べるのは、ホールケーキのいちごを捨ててスポンジだけを食べるようなものなのです。
「ビタミンC」というと、レモンやいちごを思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、じゃがいもは「大地のりんご」と呼ばれるほど、ビタミンCが豊富な食材です。その量、なんとりんごの約5倍。
通常、ビタミンCは熱に弱く、茹でたり焼いたりすると壊れてしまいます。しかし、じゃがいもには「デンプンがビタミンCを包み込んで守る」という、独自の防御システムが備わっています。
文部科学省の食品成分表や関連研究を見ても、じゃがいものビタミンCは加熱しても残存率が非常に高いことがわかっています。
口の中でほろりと崩れた瞬間、デンプンに守られ生き残ったビタミンCが、疲れた細胞の一つひとつに染み渡るのを感じてください。それは、風邪予防や肌のハリを作るための、確かな材料となります。
じゃがいもの皮には、ポリフェノールの一種である「クロロゲン酸」が含まれています。
これはコーヒーなどにも含まれる成分で、強い抗酸化作用を持ち、体をサビ(酸化)から守ってくれます。
また、皮の近くには鉄分やカルシウムなどのミネラルも豊富。「皮ごと食べる」ということは、食材の命を丸ごといただき、私たちの命の糧にするということです。
もちろん、皮が薄い新じゃがなどはそのまま食べやすいですが、通年出回る男爵やメークインでも、しっかりと洗って皮ごと調理することで、香ばしさと栄養価が格段にアップします。

「ダイエット中だから、芋類は控えています」
栄養指導の現場で、何度この言葉を聞いたことでしょうか。そのたびに私は伝えます。
「『冷えたじゃがいも』は残り物ではありません。腸内の善玉菌たちが歓声を上げて喜ぶ、最高のご馳走なのです。」
じゃがいもを「太る食材」から「痩せる味方」に変えるには、たった3つのルールを守るだけ。
それは**「冷やす・合わせる・再加熱」**です。
じゃがいものデンプンは、加熱した後に冷ますことで、その性質が劇的に変化します。
これを「レジスタントスターチ(難消化性デンプン)」と呼びます。
通常、デンプンは小腸で吸収されてエネルギー(カロリー)になりますが、レジスタントスターチは小腸で消化されにくく、大腸まで届きます。つまり、食物繊維と同じような働きをするのです。
最低4〜6時間、理想は一晩冷蔵庫へ。「温かいじゃがいも」よりも「冷えたじゃがいも」の方が、カロリーとして吸収されにくく、ダイエット向きの食材に変わるのです。

GI値(食後血糖値の上昇度)を気にする方もいますが、じゃがいもを単体で食べることは稀ですよね。
大切なのは「何と合わせるか」です。以下の「黄金の組み合わせ」を覚えておいてください。
冷やしたじゃがいもを、オリーブオイル:酢=2:1の割合で和え、そこにツナやゆで卵を加える。これだけで、完全栄養食に近いバランスが整います。

「冷たいままじゃなきゃダメなの?」と思われるかもしれません。安心してください。
一度冷やしてレジスタントスターチを増やしたじゃがいもは、「軽く再加熱」する程度なら、その効果をある程度維持できます。
表面をトースターで焼いたり、温かいスープに入れたり。
「一度冷やして結晶化させる」という工程を経ることが重要なのです。

料理番組で「沸騰したお湯に入れましょう」と教わった記憶はありませんか?
葉物野菜なら正解ですが、じゃがいもに関しては、それは「じゃがいものポテンシャル」を半分も活かせていません。
土の中で育まれたその丸い塊は、急激な熱を嫌がります。ゆっくりと温度を上げることで、眠っていた酵素が目覚めるのです。
じゃがいもを最高に甘くする秘訣。それは「水から茹でること」です。
じゃがいもに含まれる酵素「アミラーゼ」は、デンプンを分解して糖に変える働きがあります。この酵素が最も活発に働くのが、30℃から60℃くらいの温度帯。
沸騰したお湯にいきなり入れると、一瞬でこの温度帯を通り過ぎてしまい、酵素が働く前に失活してしまいます。
この「じっくり加熱」を経たじゃがいもは、砂糖を使っていないのに、驚くほど濃厚な甘みを持ちます。塩をパラリと振るだけで、涙が出るほど美味しいご馳走の完成です。
「忙しいからレンジで済ませたい」という気持ち、痛いほどわかります。
電子レンジはビタミンCの流出を抑えられるメリットがありますが、短時間加熱のため「甘み(糖化)」は起きにくいのが現実です。
賢く使い分けていきましょう。

ここまで「皮ごと食べよう」とお伝えしてきましたが、ここだけは管理栄養士として、厳しく線引きをさせていただきます。
正しい知識は、最高のスパイスです。毒を避け、薬(栄養)を摂る。その分別がついたとき、じゃがいもは家庭料理から「予防医療」へと進化します。
じゃがいもの芽や、光に当たって緑色になった皮の部分には、「ソラニン」や「チャコニン」という天然毒素が含まれています。
これらを摂取すると、食後20分〜数時間程度で、吐き気、下痢、腹痛、頭痛、めまいなどの症状が出ることがあります。特に体重の軽いお子様は影響を受けやすいので、細心の注意が必要です。

最後に、私が自分へのご褒美として、あるいは家族の体調を整えたいときに作るレシピをご紹介します。
「冷やす・合わせる・再加熱」のメソッドを詰め込んだ、心にも体にも効く一皿です。
土のミネラルとハーブの香りが、疲れた心を解きほぐします。
レジスタントスターチをたっぷり摂れる、マヨネーズを使わない大人のサラダです。
マヨネーズのコクを「ヨーグルト」と「良質なオイル」に置き換えることで、カロリーを抑えつつ腸内環境を整えます。
夏の朝、食欲がない時でもスッと体に入ってくる優しさ。
じゃがいもを「いつ」「どう」食べるか。ライフスタイルに合わせた処方箋です。
中サイズ1個(150〜180g)を目安に、野菜→たんぱく質→じゃがいもの順で食べます。
「冷やしポテト」を先に胃に入れることで満腹中枢を刺激し、ドカ食いを防ぎます。
冷やしジャガ+発酵食品(ヨーグルト、ザワークラウト、味噌だれ)の組み合わせが最強です。
多様な食物繊維と菌を同時に送り込み、お腹の中からスッキリさせましょう。
夜は量を150g前後に抑え、油は最小限に。
酸味とハーブを活用し、温野菜スープと合わせると、胃腸に負担をかけずに満足感を得られます。
A. 基本的には加熱して食べてください。生のでんぷんは消化が悪く、お腹を壊す原因になります。ただし、例外として「シャドークイーン」などの一部の品種を薄くスライスしてサラダにすることはありますが、日常的には加熱をおすすめします。
A. 実は、同量(100g)で比較すると、炊いたご飯(約156kcal)より蒸したじゃがいも(約76kcal)の方がカロリーも糖質も低いのです。さらに冷やして食べればレジスタントスターチの効果も期待できるため、上手に置き換えるのは賢い選択です。
A. 常温の冷暗所で、新聞紙などに包んで保存するのが基本です。裏技として、じゃがいもと一緒に「りんご」を1個入れておくと、りんごが出すエチレンガスが芽の成長を抑えてくれますよ。
A. 完全除外ではなく、主食の一部置き換えが現実的です。冷やしたじゃがいもを中1個(150〜180g)程度、酢の効いたドレッシングとたんぱく質、食物繊維の多い野菜と一緒に食べることで“皿全体の糖質密度”を下げられます。
A. じゃがいも自体が太るというより、量と調理と食べ合わせが体重変化に影響します。実践の基本は(1)ゆでる/蒸す→しっかり冷やす(レジスタントスターチ活用)、(2)酢+少量のオリーブオイル+たんぱく質(ツナ・鶏むね・卵・ヨーグルト・豆)を合わせる、(3)野菜を先に食べる、の三点です。中サイズ1個(150〜180g)を目安にすれば満足度を保ちながら総カロリーを自然に抑えられます。
A. 遅い時間帯は量150g前後・油最小限を徹底すれば問題ありません。酸味(酢・レモン)とハーブで味を引き締め、温野菜スープやサラダと合わせると、薄味でも満足度が上がり、就寝前の胃もたれや食べ過ぎを防げます。温かく食べたい場合も“いったん冷やしてから軽く再加熱”を守ると安心です。
A.基本は皮ごとが合理的です。皮には香り・食感のアクセントだけでなく、食物繊維やビタミンC、カリウムの取りこぼしを減らす利点があります。一方で緑化部分や芽は有害成分のリスクがあるため“厚めに除去”してください。保存は直射日光を避け、風通しのよい涼しい場所(夏場は冷蔵)に置き、作り置きは加熱→冷蔵で2〜3日以内に食べ切るのが安全です。
じゃがいもという、あまりにありふれた食材。
けれどその薄い皮一枚の下には、体を酸化から守る力が秘められ、加熱の温度一つで甘みが変わり、冷やすことで腸を守る盾となる。
そんな「食材の物語」を知ってから食べる一口は、ただの栄養補給以上の意味を持ちます。
それは、あなた自身が自分の体を大切に想う、優しい「ラブレター」なのです。
今夜の食卓に並ぶじゃがいもが、あなたの、そしてあなたの大切な人の健康を守る、心強い味方になりますように。
この記事は、以下の信頼できる情報源に基づき、管理栄養士 神崎恵理が執筆・監修しました。
神崎 恵理(かんざき・えり)
1982年京都生まれ。実家の老舗乾物屋で培った繊細な味覚と、分子整合栄養医学の知見を融合。病院勤務時代に1万人以上の栄養指導を行う
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